第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で、グランプリにあたる「作品賞」と、監督賞にあたる「国際交流基金アジアセンター特別賞」を日本人監督として初のダブル受賞した藤元 明緒 さん。そんな藤元さんが監督を務め、5つの国際的な賞を受賞しアジアの話題作の一つとして注目を浴びているのが「僕の帰る場所」。2月9日〜2月22日まで金沢のシネモンドで上映中です。
本日は今注目の監督 藤元さんをクローズアップし、「僕の帰る場所」に込めた思いや撮影秘話、そして今後の展望などをお伺いしてみようと思います。
偶然と偶然が重なりあって誕生した映画
( 写真右:藤元明緒 監督 写真左:渡邉一孝 プロデューサー 撮影場所:TSUTAYA金沢店 )
まず「僕の帰る場所」をまだご覧になっていない方のために、ざっくりとで結構ですのでどのような映画なのかを教えていただけますか?
映画の大雑把なストーリーをお話させてもらうと、日本に住むミャンマー人一家が主人公の映画です。この在日ミャンマー人の家族は難民申請を何度もしているんですが、なかなか申請が通らず、このままここで不安定な生活を送るのか、それとも母国に帰るのかといった葛藤の中にいます。結果的に母親と子供はミャンマーに帰ることになります。主人公のカウン・ミャッ・トゥ(在日ミャンマー人家族の子供)は母国語であるミャンマー語を話せない状態で母国に戻ります。日本との違いに戸惑い、言葉もカタコトしか話せない状態で生活するなかで、どう成長していくのかといった部分が1番のポイントとなっています。
今回の映画では在日ミャンマー人を取り上げられていますが、そもそもなぜミャンマーを取り上げようと思ったのでしょうか?
ミャンマーを取り上げたそもそもの経緯は、俳優であり本作の共同プロデューサーであるキタガワユウキさんが、同じく本作のプロデューサーである渡邉一孝さんにミャンマーで映画が撮りたいと声をかけて、渡邉さんがSNSで「ミャンマーで映画取れる監督募集」といった形で募集をしていたのです。そこに僕が応募したというのがそもそものキッカケなんです。
ですからその時点でミャンマーという枠組みだけはあったという感じなんです。
ただ、僕自身、ミャンマーって言葉自体は知っているけど、「あれ?場所どこだっけな?」レベルだったので地図を確認する所から始めて企画書を作りました。
その時点から在日ミャンマー人の難民申請を題材にすることは決まっていたのですか?
いやその時は全く違った企画でして、14才のミャンマーにいる娼婦とストリートチルドレンが出会って疑似家族になっていくといったラブストーリーでした。全然違うんです(笑)
この最初の企画書を作成したのは2013年頃で、その当時はミャンマーに関する情報もほとんどない状態だったので、自分で色々妄想して作成したことを覚えています。
ただ残念ながら、その当時のミャンマーの検閲によりこの企画はオジャンになってしまいました。
で、その結果、僕暇になったんです(笑)
でもこの企画を作成するにあたって、一度ミャンマーを訪れましたし、なんか忘れられないなぁという思いもあったので、日本にあるミャンマー料理店に行くようになって、そこで仲良くなった人がミャンマー難民の方が多かったんです。
そこで難民の方々にお会いして、色々愚痴とかを聞かされたりして、そしたらだんだん興味が湧いてきて、日本人でミャンマー人難民の支援をしている方の所に勉強しに行くようになりました。
その方と入国管理局へボランティアで行った時に、今回の映画のモデルとなるお父さんと出会ったです。
お父さんはカメラマン志望だったということもあり、僕はカメラのこと結構わかるので、そこで仲良くなったんです。
その人が「ビザがおりないので、昨年奥さんが子供を連れてミャンマーに帰ってしまた。子供がミャンマーに馴染めないみたいですごく大変なんだ」と言った話を聞きました。
家族が離れ離れになってていうのは僕がもともと僕が考えていたテーマでもあったので、、その子供にあってみたいなと思って、実際子供に会いに行きました。
実際に子供に会うと、お父さんから聞いていたよりはわりと馴染んる状態でした。頑張ってミャンマー語喋ろうとしていました。同時にこれだけ辛い状況があって、それを乗り越えた子供の力やお母さんの支えとかこれらの家族関係がどういう道を辿ったんだろうなと気になって、それを再現してみようと思ってこの企画が始まったんです。
結構長かったです(笑
その時点でドキュメンタリー風の映画にしようとは決めていたのですか?
その時には決めてなかったですね。
もともと今回の映画とは別のドキュメンタリーにしようと思って子供に会いに行ったんです。一人で撮影して個人的に作ってみようと思っていたんです。
で、実際会いに行ったら思いの外成長していたので、これはドキュメンタリーよりは映画にすることで、この追体験ができるかなと思ったんです。
さて、いざ企画を作成したうえで撮影となるわけですが、日本に職業俳優としてのミャンマー人がいない中でキャスティングもかなりご苦労されたそうですね?
そうですね。
一番最初にぶち当たった壁です。
結局は仲良くなっていた在日のミャンマー人からの紹介で、たまたま本当に偶然なんですけど映画の設定にピッタリの在日ミャンマー人家族と出会えました。
通常の映画のようなオーディションやってといった一般的なやり方ではなくキャスティングしました。
ということは実際に映画を撮る中で、当然演技とかの指導もあるかと思うのですが、演技指導等で苦労された部分もあったのではないですか?
テクニカル的な演技指導っていうのは絶対無理だったんです。一般の方だったので。
ただ本当の親子でもあるので、変な技術的な部分を入れるよりは、その人たちならではの仕草とかアクションとか考えとかを活かして組み込んだ方が良いのではないかと思っていました。その一方でお父さん役の方は本当の親子ではないので、演技指導というよりは、どうやったらこの家族は家族になるのかという事を最重要に考えていました。
実際、撮影の1ヵ月前からお父さんに住んでもらって、そこにお母さんと子供も来てもらって、一緒に食卓を囲んだりしてもらいました。何かをすると言うよりは、何でもない時間を過ごしてもらったという感じです。
凄い狭い部屋なんですよ。
1Kなので。
そこで時間を過ごしてもらうことで、親密さを増していってもらいました。
この1ヵ月でお互いの信頼関係ができたように思います。その後撮影をしていった感じです。
じゃあ、実際の撮影では演技ではできないような、自然な子供の表情とかも結構撮れたりしたのではないですか?
そうですね。
それはやはりこちら側が1〜100まで指定していると子供はもちろんお父さん・お母さんも固くなっちゃう、言わされている感じになってしまうと思うんです。
どちらかというと、ちゃんと現実世界でこちらに住んでいる人・家族に僕ら映画チームがお邪魔して撮影している感じをとりました。
みんながこう動きたいからカメラはここにといった感じで、普通だとカメラでこういう絵を撮りたいから役者さんはこう動いてくださいとなるんですが、その真逆で撮影していました。
その結果、ドキュメント風になっていたということです。
家族の内部に入り込んでホームビデオ撮ってるという感覚にしたかったんです。現実世界では他人の家族に入れ込めないですが、この映画ではそこに入り込んでいく感じにしたいと思っていました。
となると、このシーンでこういった表情が欲しいといったものが撮影するまで待つ感覚だと思うので、撮影に時間がかかったのではないですか?
そうですね。
それはかなり時間をかけました。
じゃあ撮影後の編集も大変だったのではないですか?
撮りすぎちゃったせいで、自分が欲しいと思っていた絵を狙って長時間撮影している間に、また別の次元の所でいい絵が撮れてたり、いい動きや表情が撮れてたりしたので、そこをどうやったら編集繋がるだろうと悩みました。パズルのようでしたね。
色々試行錯誤を繰り返したんですが、最終的には脚本通りになりました。
その時にはもう2年経ってました。
周りからすると「え?何してるの?」と思われてたんじゃないかと思います。
映画から離れるんですけど、当「金沢時間」は結構グルメの情報を発信していることが多いんです。それで撮影でミャンマーに行かれたと思うので、ミャンマーの食事で一番記憶に残っているようなものがあればぜひご紹介してください。
実は、、今、、現時点ではミャンマー料理食べれなくなっちゃってるんですけど、、
というと?
向こうで食中毒になって入院してから、ちょっと食べてないんです。
原因は水とかですか?
原因が分からないのですが、、、食器の衛生面なのか、素材の保存が悪いのか分からないですけど、、、
じゃあ視点を変えて思い出に残った食事とかありますか?
すごい定番なんですけど、代表的な朝ごはんというものがあって、ナマズの出汁でとった「モヒンガー」というラーメン。
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ちょっと魚臭い感じで、
それ食べたら、、、、当たりました(笑
あ、あと「オンノカウスウェイ」というココナッツラーメンも美味しかったです。
話を映画に戻します。今回初の長編映画を監督されたわけですが、今後、こういう映画を作って行きたいという目標などありますか?
そうですね。次は5年かからないようにしたいんですけど(笑
2、3年に1本のペースで映画を作っていければなと思っています。
次は、今年か来年の頭になるのかはまだ分からないのですが、長編の2作目を撮ろうと思っています。
実は1本短編映画を昨年末撮ったんですけど、、ちなみにそれもまたミャンマーなんですが、、
インパール作戦で当時の日本兵の方が亡くなっているんですが、その遺骨を掘っているゾミ族という民族の方がいて、そのゾミ族の仕事の様子を納めた短編映画が間も無く完成する予定です。
なるほど。次の長編映画も楽しみです。本日はありがとうございました。
上映情報
上映期間: 2019年2月9日〜2月22日
上映場所:金沢シネモンド( 076-220-5007)
石川県以外の上映スケジュールはこちらからご確認ください。
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